相子智恵
ことごとく大根引かれ大月夜 大峯あきら
句集『短夜』(2014.9 角川学芸出版)より
畝から抜かれた大根が、そのまま畝の上に置かれている収穫途中の風景だろう。土の上に大根がびっしりと横たえられている。
夜になった。見事な月夜だ。無数の大根たちは白々と月に照らされる。そこには身近な野菜である大根のもつ生活感はなく、大根はただそこにある物体として、白いオブジェのように冷たく光っている。
収穫の風景としては、引かれた大根が並んでいるのは珍しくはないのだが、月夜だからか〈ことごとく〉がどこか狂気めいて感じられ、それがとても美しい。大根の下には、月の光が届かない、無数の大根が抜けた穴が真っ暗に開いている。
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