相子智恵
寒卵蛇の供物として売らる 岩崎信子
句集『幻燈』(2014.10 ふらんす堂)より
寒中に産んだ鶏の卵〈寒卵〉は産卵数が少なく、栄養豊富で生で食べるのが良いとされ、昔は珍重されてきた。しかし現代では卵は安定的にいつでも食べられるようになったため、実際の〈寒卵〉の感覚は想像するしかない。そのような季語である。
掲句はそんな状況にある寒卵という季語の本意を、人間以外が食べるという意外な内容によって照らし出している。供物が売られているくらいだから、この蛇は神鶏のように神の使いとして飼われているのだろう。そんな特別な蛇に、栄養豊富な寒卵を供える。ここでは寒卵が活きているばかりでなく、不思議な力さえみなぎっている。
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