相子智恵
雪嶺の奥に雪嶺喪に集ふ 猪俣千代子
句集『八十八夜』(2014.11 角川学芸出版)より
喪の句でありながら暗さはなく、風景を描くことで故人がどんな人だったのかが表れてくるように思えて惹かれた句。
〈雪嶺の奥に雪嶺〉は、実際に喪の場面で見た風景であると思うが、その山脈の険しさと奥深さは、故人の理想の高さや、故人が生きてきた道の険しさも思わせる。そして厳しいながらも雪の白さが清々しく、尊敬すべき人物であったように思われてくるのである。
下五〈喪に集ふ〉の「集う」によって、故人を慕った人たちの多さが描かれる。故人は、慕われて尊敬された、先生のような人だったのかもしれない。そういえば加藤楸邨は弟子が多く、門下は「楸邨山脈」と呼ばれたが、そのような歴史が脳裏に浮かんでくる。集った人たちもまた、自分の理想の雪嶺を進むのである。
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