樋口由紀子
矢車草の花が墓を白いピアノにみせる
山本浄平 (やまもと・じょうへい)
一般的で味気ない墓が矢車草の花を供えることによって白いピアノにみえるという。白いピアノへ導く独自の世界。白いピアノは亡き人に奏でる。「白」は純正で無垢。故人への気持ちの表われだろう。
いくら矢車草の花を飾ったからといって、墓が白いピアノにみせるなんてことは思いもよらなかった。矢車草と白いピアノに因果関係もない。しかし、見方のよって、あるいは発想の転換で今居る場、在る物が別のものになる。おおげさに言えば世界が変換する。墓は墓としてしか見ることができないでいた。というよりもそれが真っ当だと思っていたので掲句を読んだときは驚き、感心した。
山本浄平は明治生まれで、「ふあうすと」の発起人で創刊同人。「初めに川柳という枠があるのではなく、各作家の個性が、それぞれの川柳を創りだす」と作者の言葉にある。〈緑の芝生歩く白い靴白い孤独〉〈金平糖二粒落とせばふたつの水中花咲く〉〈ホテルの温室でポインセチアの色が待ってる〉『川柳新書』(昭和32年刊)所収。
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