樋口由紀子
うっすらと雪置く墓を撫ぜに来た
石曽根民郎 (いしぞね・たみろう) 1910~2005
しんとした美しい情景が目に浮かぶ。「うっすら」とあるから新雪なのだろうか。まっしろな雪が大切な人が眠っている墓を飾ってくれている。その墓を撫でに来た。たったそれだけのことを言っているのだが、しんとした寒い空気とどれほどまでに亡き人を偲んでいるのかが鮮明に伝わってくる。
「雪置く墓」の措辞がいい。そして、「撫ぜに来た」で川柳になったと思う。「撫ぜる」とは究極の親愛のしぐさのような気がする。「撫ぜる」ために、会いに来た。この世ではもう会うことはできないのだ。ひんやりした感触、静謐で身が引き締まる。
〈でかめろん哀しい唇見せに来た〉〈想い出のひと多くみな月のなか〉〈ほころびに似てこの酔いをたのしむか〉
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