樋口由紀子
少しなら飲んでもという医者に替え
早川清生 (はやかわ・せいせい) 1929~2008
酒を題材にした川柳は多い。「飲んでも」は「飲んでもまあいいかな」と「飲んでもいいでしょう」の間だろう。
突発性難聴になったときに、さてお酒は飲んでもいいのかと悩んだ。注意書きにお酒の項目はなかった。書いてないということは飲んでもOKなのだと解釈したいのだが、飲んだらだめに決まっているからわざわざ書いてないのであって、悩むことすら理解できないとお酒を飲まない友人にあきれ顔で言われた。しかたないのでおそるおそる担当医に尋ねた。勧めませんが、それでストレスがたまるのなら適量はいいですと言われた。そのときにこの医者でよかったと心底思った。「飲んでも」が実感としてよくわかる。
2010年に早川清生遺稿句集『よしきり』が刊行された。それによると清生は「下戸」であったらしい。掲句は客観的川柳であった。酒飲みの心の動きを見事に突いている。〈病院の横でも医院食ってゆけ〉〈喪服着た時褒められたことがある〉
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