2015年3月13日金曜日

●金曜日の川柳〔矢須岡信〕樋口由紀子



樋口由紀子






鼾かくので図書館には行けぬ

矢須岡信 (やすおか・しん) 1929~2011

最初から寝ようと思って図書館に行くのではない。しかし、本を読んだり、調べものしているとついうとうとしてしまう。静かだし、空調も効いていて、図書館は眠くなる絶好の場所なのである。うとうとするだけならまだ問題はない。困ったことに寝ると自然に鼾をかいてしまう。いかんせん、寝ているからどうすることもできない。だから、図書館には行けない。

〈図書館→寝る→鼾→行けない〉という構図ができあがり、ユーモアとペーソスをこめて結論に導く。まったく関係がなさそうな事柄に進めていくというほどのことではなく、読み手も手品の種はうすうすわかっているのだが、そこに好意を持って納得する。

〈とっておきの話が母の忌にこぼれ〉〈働いたくらいで金持ちにはなれぬ〉〈うしろに目が付いてないのは救いだな〉〈偉い人になろうと思ったことがある〉 『数え歌』(2000年刊)所収。 

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