相子智恵
その距離を永久にたもつや夫婦雛 秦 夕美
句集『五情』(2015.2 ふらんす堂)より
言われてみれば、雛人形同士の距離は定まっているものである。金屏風を背に、毛氈の上に鎮座する男雛と女雛は、それぞれが着物の袖を左右に流す空間もあって、微妙な距離を保っている。近すぎもしない、かといって遠くもない距離。毎年毎年、飾られるたびに永久に同じ距離が保たれるのだ。今より密着することも、離して飾られることもない。
雛人形の間にある空間に目をとめ、その距離感に着目するのが現代的な把握だと思った。夫婦の間の距離だとか、ひいては人間関係全般の距離だとかに敏感な時代だからである。雛人形の距離は永久に保たれ、交わることも離れることもない。人間同士はどうか。SNSなどで誰もがつながりやすくなり、しかも薄くゆるやかなつながりが保たれる。微温的な人間関係が〈その距離を永久にたもつ〉と響く。
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