樋口由紀子
何処でやろうがテレビで見ますオリンピック
斉藤幸男 (さいとう・ゆきお) 1936~2015
おばさん(おばあさん)同士の会話でよく耳にするのが、「リニアには乗れるかな。大阪までは無理やけど、名古屋までならなんとかいけそうな気がする。まあ、東京オリンピックはだいじょうぶやろ」と。東京オリンピックがオチになる。元気だからこそ言えることである。東京オリンピックは2020年、中央新幹線の首都圏から中京圏の開業予定は2027年、大阪までは2045年。自分の年齢で計算する。
2013年にオリンピックの東京開催が決まった。開催が決まった瞬間に飛び上がって喜ぶ招致メンバーの姿がテレビに写し出されたときに大きな違和を感じたことを思い出した。掲句はその時に書かれた時事川柳である。確かにオリンピックが地球の裏側で開かれようが、たとえ日本で開かれようがほとんどの人はテレビ観戦である。作者は東京オリンピックどころか、今春の桜も見ることなくあの世に旅立ってしまった。
〈酔っ払いにまじめに話す酔っ払い〉〈君が代の二番歌ったことがない〉〈風が来て次のページをめくられる〉 「触光」35号(2013年12月刊)収録。
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思わず、みごとと声に出してしまいました。その後は、ひとしきり大笑い。東京オリンピクに対する違和感は、私にもあります。そんなに浮かれ騒いで大丈夫なのか、という感じで。だから、オリンピックもこのくらいの受け止めで十分かと思いました。川柳ってほんとうにすごいですね。
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