2015年5月30日土曜日

【みみず・ぶっくす 24】 老人とバナナ 小津夜景

【みみず・ぶっくす 24】 
老人とバナナ

小津夜景





【みみず・ぶっくす24
        老人とバナナ     小津夜景

      さいきん、
      老いとバナナというのは
      抜群の相性なのでは?と思うことがある。
      よくよく眺めると、バナナというのは
      ①ドラスティックな形。
      ②コンサヴァティヴな味。
      ③ポップな色。
      を備えていて、すごくモダンだ。
      一本でも充分モダンアートだが、
      一房になるとバウハウスっぽく、
      部屋におくとオブジェにみえて、
      本当にすごいバナナ。    
      完全に大人の趣味を満たしている。
      だが大人といっても
      中年男とバナナではお話にならない。
      中年女とバナナというのも妙に困る。
      青年とバナナではバナナが可哀想だ。
      充分に老いた者が手にしてこそ、
      バナナはその本領をあらわにする。
      さんざん「前衛」ぶった後、
      世俗を離れて自然に親しみ、
      風流な南島生活を送っている
      ように見えて実はそんなに枯れてもいない
      といった妙に飄々としたバナナの佇まいが
      老いという楽しげな仙境に通じているのだ。

夏の日の一冊があり橋があり
蟻のかたちしてましろき椅子(チェアー)かな
風月を友としたりやバナナの葉
つちふまず青き嵐と親しまむ
マンゴオの室内楽を奏でたり
サボテンの花にまつはる死と乙女
犯人の手にしてゐたる黒電話
わが汲みてわが飲む水や雲の峰
木の匂ひ濡れまさる夜の金魚かな
風化してなほ古を恋ふる鳥

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