老人とバナナ
小津夜景
【みみず・ぶっくす24】
老人とバナナ 小津夜景
さいきん、
老いとバナナというのは
抜群の相性なのでは?と思うことがある。
よくよく眺めると、バナナというのは
①ドラスティックな形。
②コンサヴァティヴな味。
③ポップな色。
を備えていて、すごくモダンだ。
一本でも充分モダンアートだが、
一房になるとバウハウスっぽく、
部屋におくとオブジェにみえて、
本当にすごいバナナ。
完全に大人の趣味を満たしている。
だが大人といっても
中年男とバナナではお話にならない。
中年女とバナナというのも妙に困る。
青年とバナナではバナナが可哀想だ。
充分に老いた者が手にしてこそ、
バナナはその本領をあらわにする。
さんざん「前衛」ぶった後、
世俗を離れて自然に親しみ、
風流な南島生活を送っている
ように見えて実はそんなに枯れてもいない
といった妙に飄々としたバナナの佇まいが
老いという楽しげな仙境に通じているのだ。
夏の日の一冊があり橋があり
風月を友としたりやバナナの葉
つちふまず青き嵐と親しまむ
マンゴオの室内楽を奏でたり
サボテンの花にまつはる死と乙女
犯人の手にしてゐたる黒電話
わが汲みてわが飲む水や雲の峰
木の匂ひ濡れまさる夜の金魚かな
風化してなほ古を恋ふる鳥
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