樋口由紀子
自転車を停めてたばこを吸うている
奥野誠二 (おくの・せいじ)
喫煙者の肩身がますます狭くなっている。掲句は肩身が今ほど狭くなかった時代の作品である。「停めて」だから、停めたついでに一服したではなく、わざわざたばこを吸うために自転車を停めた。この違いは大きい。それに気づいて、そこに着目し、おもしろがりたかったのだ。
作者本人のことを詠んだのか、そういう人をたまたま見かけての一句なのか。どうも後者のような気がする。本人ではないから、「停めて」かどうかは正確にはわからないが、この上なくおいしそうに吸っている姿が印象に残ったのだろう。
自分や人の行為や行動のある部分を切り取って、川柳にする。要はそのコト(景)に引きつけられ、気に入り、おもしろいと思ったからだ。たいそうな意味がたえずあるわけではない。たいそうな意味がないから、かえって豊かな味わいを感じる。「創」収録。
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