相子智恵
夜濯の柔軟剤の薄みどり 千倉由穂
「煙のにおい」(WEBマガジン「スピカ」 2015.6.4更新)より
香り付きの柔軟剤が発売されてからだろうか、洗濯の仕上げに柔軟剤を入れる人が多くなったように思う。というよりも、他人が柔軟剤を使っているかどうか、今まで洋服の見た目ではさほど気付かなかったものが、香りで気付くようになり、多くなったと私が感じるようになっただけなのだろうが。
掲句の〈薄みどり〉は人工的な美しい薄緑色だ。ここには色が描かれているが、人工的な香りも感じられてくる。人工的な薄緑色の、香りの強い液体を洗濯機に流し込む無機質で孤独な光景。それでも自然への小さな扉が開いているように思うのは、薄緑色というその色ゆえだ。洗濯が終われば干すために窓を開ける。窓の外には〈プラタナス夜もみどりなる夏は来ぬ 石田波郷〉のような植物の緑色が見えるのではないかと思えてくるのである。夏の夜の蒸すような空気の中に、植物の匂いもかすかにしてくるだろう。この〈薄みどり〉によって、人工的な閉塞感が少し薄らぐ気がする。
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