樋口由紀子
本当に弾むか投げてみる祖国
滋野さち (しげの・さち) 1947~
「祖国」とは何だろうと思う。スカスカではなく、中身が詰まっていれば弾むはずである。守ってくれる、裏切らない、信じるに値することの意味も含んでいるのだろう。本当にそうなのか、心もとないことがあまりにも多い。
「投げてみる」ことによって明らかにしようとする。それは世の中とのかかわりあいを避けないで、切り開こうとする意志の表われである。自分と自分をとりまくものをあわせて考えてゆく、作者の姿勢を示している。
祖国は期待通りに毬のように弾んだのだろうか。それともころころと統治者の都合のいいところに転がっていったのだろうか。あるいは何の反応もなかったのだろうか。滋野は読み手にも問いかけてくる。向き合わねばならないシリアスな問題は山積みされている。
〈乗客は私一人の月のバス〉〈賞罰がなくてシロツメクサがある〉〈雨だれが止まない母の軒である〉 『オオバコの花』(東奥文芸叢書 2015年刊)所収。
●
0 件のコメント:
コメントを投稿