相子智恵
一蝶の天駈けり来し朴の花 深見けん二
『俳句』2015年5月号 特別作品50句「遅き日を」より。
一匹の蝶に〈天駈けり来し〉とは大仰な表現だが、天を仰ぐように上向いて咲く真っ白な朴の花との取り合わせによって、この蝶の神々しさが増し、〈天駈けり来し〉も納得させられる。
掲句はまぎれもなく写生句でありながら、朴の花が待ち望んでいた一匹の蝶が降臨する……そんな神話のような世界が生まれているのである。小さな蝶と大きな朴の花という大小のコントラストがまた、そのような神話性を読む者に与える。
当たり前だが、写生句も言葉だ。同じ風景を見ても、どんな言葉が俳句に表れるのかは一人一人違う。客観写生、花鳥諷詠を唱えた虚子ならどんな句になっただろうかと、ふと考える。作者は虚子に直接学んだ俳人。虚子の生の言葉を今に伝える貴重な存在である。
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