樋口由紀子
馬鹿正直に目に目薬をさしている
松原典子 (まつばら・みちこ)
のっけから「馬鹿正直」である。そして、「目に目薬」。「目に目薬」はあたりまえである。しかし、「目薬をさしている」と比べて、妙なおかしさを持っている。
目に容器の先があたらないように、目にちゃんと目薬が入るように、目薬をさすのは思うより簡単ではない。意識を集中させて、ときには口を開けながら、その姿はあまりかっこいいものではない。薬なのだから、必要があってさしているので、むやみさしているのではないのだが、ふと「馬鹿正直」という身も蓋もない言葉が浮かんできたのだろう。そして、今の自分にこれ以上ふさわしい言葉はないと思ったのかもしれない。「私」のまぎれもない実感である。言われたとおりに疑いもなく実行する。人間って、いいものである。
〈枕頭のバラ一輪の浄土かな〉〈あるときはときめく袋持たされる〉〈一本のさくら担いで行く家族〉 『ねこだまし』(2010年刊)所収。
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