樋口由紀子
いっせいに桜が咲いている ひどい
松木秀 (まつき・しゅう) 1972~
「ひどい」に肩透かしをくらった。が、現実感を強く感じた。いっせいに咲いてしまうからか。いっせいに咲くとあまりにインパクトが強いからか。まだ桜が咲く受け入れ準備ができてないのに、もう咲いている。あわただしい。急かされる。いずれにせよ、的確とは到底思えなかった「ひどい」が実にぴたりと嵌っている。
松木は『5メートルほどの果てしなさ』で第一回現代短歌協会賞を受賞した歌人でもある。掲句も短歌っぽいところがある。短歌っぽくたって、俳句っぽくたって、私はいいと思っている。要はそこからどうするのかである。
「ひどい」は綿密に計算された言葉である。一字空けも他にも「ひどい」があると思わせる。修辞を駆使して、新たな言葉の世界を開いていくやり方を学びたい。「おかじょうき」(2015年刊)収録。
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