関悦史
棲むたびに蔵書に埋もれ浮寝鳥 東金夢明
蔵書家共通の悩みだが、面白い句にはなりにくいところを「浮寝鳥」がうまく掬っている。
「棲むたびに」は、何度か転居しているのだろう。その都度、蔵書の整理はしているはずだが、またすぐに溜まっていき、本の隙間に埋もれて暮らすことになる。
本の重量も大変なもののはずだが、その重量はどっしりした定住感覚には全く繋がらず、置場の不足からかえって漂泊中のような思いを催させる。自分の死後の蔵書のゆくえなどを考えればなおさらのことだ。
その頼りない生活感情を担っているのが「浮寝鳥」なのである。穏やかに見えはするだが、地に足がついていない。
つまり「浮寝鳥」が暗喩になっている格好で、これは重く陳腐化しやすい方法だが、句と作者の自己との距離が絶妙なのか、ここではかえって、ナマな生活感情を落ち着いた風格のある句に仕上げることとなっている。
作者自身が「浮寝鳥」にどっぷり自己投影されているというよりは、いわば諺や格言のように話を一般化しているのだ。その一般化が、自分の感慨から遊離しきらない有機的な繋がりをどこかに保っている辺りが、この句の安定感と慕わしさの理由なのだろう。
句集『月下樹』(2015.5 友月書房)所収。
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