樋口由紀子
ご先祖のどなたの歳も越えました
苅谷たかし (かりや・たかし) 1919~2006
父は67歳、母は83歳、祖父は61歳、祖母は81歳だったから、私は祖父の歳は越えたが、まだみんなの歳は越えてない。もっと前のご先祖は不明だが、そう長生きしていないから、たぶん越えているだろう。いずれどなたの歳も越えるのもそう遠くないような気もするが、いつかは死んでしまう。
一昔前では考えられなかった、それほどの高齢化社会である。ご先祖の歳を越えた人はたくさんいる。作者もよもやどなたの歳も越えるとは思っていなかっただろう。その年齢まで生きられたことへの感謝とそれにあまりある感慨が掲句から感じられる。いい事も悪い事もいろいろなことがあった。これからもいろいろなことに出合うだろう。さて、この先はどう生きようか。踊って暮らそうとは思わなかっただろうか。
〈緞帳の降りるあいだを見得のまま〉〈割り箸にうどん素直についてくる〉〈どの汽車に乗っても終着駅がある〉 苅谷たかし遺句集『ちびた鉛筆』(2015年刊)所収。
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