樋口由紀子
死にかけた話他人は笑うなり
東野大八 (とうの・だいはち) 1914~2001
たいへんな目にあったのに笑うなんて、ひどい話である。しかし、ありそうである。笑われるのは心外だろうが、死にかけたのであって、死んだのではない。こうしてその話をしているのだから、よかったのだ。死んだ話には人はまちがいなく涙する。
一歩間違えばとんでもないことが起こる手前の、じたばたやどたばたは話としては確かにおもしろいものがある。掲句は人間観察の鋭さというのではない。うすうすそうかと気づいていたことを、「あるある」という共通感覚を下敷きにして一句にしている。川柳のひとつのスタイルである。それをよしとするかしないか、そこに川柳の評価の分かれ道があるように思う。
東野大八には『風流人間横丁』『没法子北京』などの好著があり、死後『川柳の群像』が刊行された。『現代川柳選集』第三巻(芸風書院 1989年刊)所収。
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