相子智恵
海鼠噛むいつも調子の悪き人 長浜 勤
句集『車座』(2015.11 本阿弥書店)より
海鼠は酒の肴であろう。〈いつも調子の悪き人〉は、だから重い病気などではない。
酒を酌み交わし、肴の海鼠を噛みながら、「最近、腰の具合が悪いんだ」「ちょっと前は、膝が悪いって言ってなかったか?お前はいつも、どこか調子が悪いよなあ」などと、小さな不調を酒の肴に、笑いながら語れるぐらい、普通の(いつもどこか調子の悪い)人なのである。
「病気自慢」などという言葉もあるが、年を重ねると、どうしても体の不調が増える。だから、調子が悪いことが社交辞令や、お互いの近況報告になることもあろう。もちろん、この人が年配だとはどこにも書かれていないのだが、季語の〈海鼠噛む〉という渋さが、そう想像させる。この渋さはまた、〈いつも調子の悪き人〉と作者とが、古くからの友人であることを想像させ、ネガティブな物言いなのに決して意地悪な感じになっていない。飄々と諧謔に転じてみせているのである。
作者は、平成26年の俳壇賞を受賞しており、その受賞作〈車座の老人月へゆくような〉が本句集の題名となっている。この〈車座〉の句もまた、「老い」を飄々と(あるいは、ぬけぬけと)諧謔に転じた句で面白い。
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