相子智恵
白鳥の在り夕ぐれの全重量 藤野 武
句集『火蛾』(2016.1 角川書店)より
不思議な句で、とても美しい。
〈夕ぐれの全重量〉とは、どのくらいの重量だろうか。夜が覆いかぶさってくるから重くも感じるし、逆にその曖昧な光と時間が、昼の終わりにも夜の始めにもスーッと融け出すので、透明な軽さであるようにも思う。
そこに白鳥が「在る」。掲句は「白鳥が夕ぐれの全重量である」とも読める。「白鳥の在り/夕ぐれの全重量」と切れを強調すれば、白鳥と夕暮れの重量は別のものだと読める。どちらとも取れて滲みあうから、この句は美しいのだ。昼とも夜ともつかない夕暮れの光のように。
白鳥は遠目には白くて軽やかそうであるが、近づくと、その大きさと重量に驚く。白鳥の存在感(私は飛んでいる白鳥ではなく、水辺にたたずむ白鳥を思った)が、錨のように夕暮れの重みとなって存在している。しかし、白鳥の白さは逆のベクトルで、全重量を軽くする。
重くて軽い夕暮れに、重くて軽い白鳥が、存在する。
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