関悦史
うみうしやうみざうめんや春動く 岡田史乃
先日、Yahoo!知恵袋で「日本の俳人でウミウシやウミヘビを題材にして、1000以上の句を詠んでいる人がいますか?」なる質問を見かけてこの句を思い出した。
「うみうし」も「うみざうめん」も季語ではあるまいから、そんなにまとめて句にしている人もいないだろうし、この句集もこの手の題材が特別多いわけではない。
ウミゾウメンというのは、検索してみると海藻の一種らしい。ほかに梅雨の時期に見られるアメフラシの卵塊もウミゾウメンと呼ばれるという。前者は食べられるが、生育場所の写真を見るとミミズの群のようでもある。
ウミウシの方は触覚を振って歩くさまが牛に見立てられてこの名がついたらしく、種類も多くカラフルだが、どちらもグロテスクといえばグロテスクな生き物ではある。
季語「春動く」は「春めく」「春きざす」等と同じなので、ウミウシやウミゾウメンの派手さや柔らかさは似つかわしい。
ところでこの語り手は、ウミウシやウミゾウメンと「春動く」とのアナロジーにとどまっており、ことさら感情移入したり、アニミスティックに共生意識を持ったりはしていないようで、ごくあっさりした扱いだが、かといって突き放しているわけでもない。いわば博物誌的な視線を向けているのである。この距離感から、柔らかい生きた宝石・宝飾品とでもいうべきこれらの生物の生命感が、兆し始めた春の光を受けつつ、きらきらと立ちあがってくる。
句集『ピカソの壺』(2015.9 文學の森)所収。
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