相子智恵
この文を今渡さばや風光る 吉田林檎
第3回星野立子新人賞受賞作「太古の空」(2015.05 私家版冊子)より
郵送する手紙ではない。相手に面と向かって、今この場で、この手紙を渡したいのだ。
そういえば、大人になると面と向かって手紙を渡したり、もらったりする機会はほとんどなくなる。だから掲句からは自然と、学生時代の、学校や通学路で渡す手紙が想像された。いつも同じ場所に通う相手だからできる手紙の渡し方だし、〈今渡さばや〉の「今、この時しかない!」と勇気を出す感じと、〈風光る〉というキラキラした明るい季語が、そんな青春の一場面を感じさせるのである。
しかし同時に、SNSやメール全盛の現代の学生にとっては、こういう手紙を手渡す場面自体があまりないことなのかもしれないとも思う。この句の構成も「手紙」ではなく〈文〉という言葉を使っていたり、〈渡さばや〉の古語も古風だったりして、青春性がありながら、どこかノスタルジックに作られている。
つまり、この句は青春を通ってきた大人の俳句なのである。それでも、いや、それだからこそ「キュン」とさせるものがあるなと、大人になってからの方が長くなりつつある私は、読んでいてそう思った。
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吉田林檎です。
返信削除早速取り上げていただき、ありがとうございます。作品が独り立ちするのを見るのは嬉しいですね。智恵さんの評を得てさらに句が逞しくなった気がします。
先日は「後程」と言いながらご挨拶出来ず失礼しました。折あらばゆっくりお話出来ればと思います。