相子智恵
夕星(ゆふづつ)
へ囀りの樹の揺れやまず 甲斐由起子
「俳句」2016.4月号 作品12句「春楡」(2016.03 角川文化振興財団)より
「囀り」は求愛のための鳴き声。人間はその声を、ただ美しいものとして聴くが、鳥たちにとっては切実な呼びかけであろう。〈樹の揺れやまず〉に鳥の求愛の切実な様子が表れていて、そのことに気づかされる。
鳥が囀る木が揺れ止まないまま、夕方、西の空に宵の明星が現れる。木は揺れ続けながら、だんだんとシルエットになってゆき、やがて見えなくなる頃には囀りも止むのだろう。目に見えるものが少なくなる分、耳に聴こえる囀りの印象が強く残り、余韻が深い。
「夕星や」のように上五で切ることなく、「夕星へ」と全体の風景が繋がることで一枚の映像にすべてがおさまり、絵本の絵のような柔らかさが生まれている。囀りの声が星まで届きそうだ。
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