相子智恵
花冷のそのうち失くす傘と思ふ 藤井あかり
「俳句」2016.4月号 「遺失」(2016.03 角川文化振興財団)より
〈花冷〉は急な冷え込みと桜の華やぎが同居し、寂しくもあるが、冬の寒さとは違う明るさがある。華やぎと寂しさが同居する美しい季語だ。
そして、おそらく失くした時に雨が降り、急きょ買った傘なのであろう。「ずっと大切にしよう」と気合を入れて買ったのではなく、「そのうち、この傘もきっと失くしてしまうのだろう」と、買ったときから別れを予感し、諦めている傘。その新品の傘の華やぎと結末を考えてしまう寂しさが、〈花冷〉と響きあっている。
〈花冷の〉で切れていないから、花冷の時に傘をさしているのだと思う。桜の花の儚さと、いつか失くす傘の儚さ。その冷え冷えとした一瞬の出会いが、寂しくて美しい。
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