樋口由紀子
雲は道化師消化薬をあげよう
葵徳三 (あおい・とくぞう) 1903~1977
窓から空を眺めていると雲がどんどん進んでいくのがよくわかる。こんなに早くと思うくらいに動く。それに伴っていろいろなかたちになる。まさか、見ている人を楽しませるためではないだろう。たぶん無理していると見て、その雲を道化師と捉えた。
道化師は人をおもしろがらせるために滑稽を演ずる。おかしくなくてもおかしい動作をして、みんなを笑わせる。胃腸だってまいっている。たぶん疲れていると感じて、その道化師に消化薬をあげようという。雲→道化師→消化薬の事の運び方が独自で、それぞれが響き合っている。
葵徳三は「ふあうすと」に精力的に評論も書き、川柳に新しい息吹を求め続けた。還暦を機に「雲」をモチーフとした作品を書いた。〈錠剤を掌に置き雲を見ぬ二日〉〈生死観 五分六分なり浄土雲〉〈雲十年雲が摑めず雲にいどみ〉〈砂地獄のくらしの上に雲がある〉。
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