樋口由紀子
家中の灯りを点けて確かめる
平井美智子 (ひらい・みちこ) 1947~
家中の灯りを点けて確かめたかったのは何か。それは家中の灯りを点けても確かめられるものではないことを知っている。はっきり言えるのはどうしても確かめたいことがあるのだ。たぶん誰かの心(たぶん、恋人の)であり、自分の心だろう。
冷静になって全体を見渡せば、明るくすると見えてくるものがあるという共通項を言い訳にして、無駄で出鱈目な行為をしている。頭ではどうすることもできないから身体を動かして心を落ち着かせている。
家中の灯りを点けまわっている姿を想像するとせつなくなる。簞笥の隅に転がっていたボタンを見つけて、カチカチになっていた頭と心が少しでもほぐれたらと思う。自分だけのフィクションを作り上げて、現実を乗り越えようとしている。
〈家に帰ろう海が優しく笑うから〉〈「ぞうさん」を唄う涙が止まるまで〉〈あっさりと隣の猫になったタマ〉 『なみだがとまるまで』(2013年 あざみエージェント刊)所収。
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