樋口由紀子
カレーライスにぶすぶす埋める平均値
石川重尾 (いしかわ・しげお) 1925~
カレーライスは手軽ですぐに満腹感を与えてくれる優良な料理である。カレーライスが嫌いな人はあまりいない。そんな満足度の高いカレーライスに八つ当たりしている。「カレーの好きな人は現状維持を求める保守派」と寺山修司は言ったらしい。
今の世の中はいろいろなことを一様化しようとする時代のいきおいのようなものがある。それは心にも感受性に対しても平均化がはかられる。平均値から外れたくない、外れていると思われたくない風潮。そのようなものに対峙し、対抗するための、いや、どうすることもできなくて、「ぶずぶす」なのだろう。
「ぶすぶす」の擬音語にいやな感じがでている。「ぶすぶす」は尖ったものを柔らかい厚みのあるものに繰り返し刺す音で、切実感もあり、強い意思表示がある。石川重尾は反骨の人である。〈そして河口に青い刃物が捨ててある〉〈足早に人を逝かせて冬したたか〉。
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