樋口由紀子
コンパスの巾、平面を生まんとす
藤井小鼓 1900~1925
こういう雰囲気の川柳はあまり見たことがない。コンパスを使うとその巾によって平面ができる。たったそれだけのことを書いている。しかし、こういうかたちで世界観を出すことができるのだと思った。
実際にコンパスを使って円を作ったのだろう。それともその光景を目にしたのだろうか。コンパスの巾を狭くすると小さな円、広げると大きな円、同じ円や大小異なる円が単純な作業で確かなものとしてつぎつぎと生まれる。そのあたりまえのことが自分自身も何かと繋がっていくような、不思議な増幅感をもたらしてくれたのだろう。平面の向こう側の知らない彼方、目の前の世界を確認しようとしている。不思議な句である。
〈今日此家に日の丸が赤い〉〈豆腐屋が昨日と今日を知っていた〉〈箒の不徹底を叫ぶ日が来る〉〈鰻、鰻、なるほど串に刺されやう〉 このような川柳が大正時代に書かれていた。
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