2016年10月24日月曜日

●月曜日の一句〔九里順子〕相子智恵



相子智恵






去る者を秋の向うに置いてみる  九里順子

句集『風景』(2016.09 邑書林)より

「来る者は拒まず、去る者は追わず」ということわざがある。掲句はそれを意識して作られているのかもしれない。

去る者を追わずに「向うに置いてみ」たとき、どんな風景が広がるだろう。

まず「秋の向う」がどこなのかといえば、時の流れからして自然に「冬」が思われてくる。去る者は、冬の寒い場所に置かれる。

では「秋の向うに置いてみる」と言っている人はどこにいるのか。おそらく秋か、秋を挟んでひとつ手前の季節である夏かもしれない。

「去る者は追わず」ということわざでは、追わないのだから去る者とは一生会えない。しかし「秋の向うに置いてみ」た人とは、追わなくても季節が勝手に進んで、自然に巡りあえそうな気がしてくる。

だから、冬という寒い場所に置かれた「去る者」は、さほど寂しそうに感じられない。秋の向うに置いた人自身も、寂しそうではない。

「いつかは会える」という気持ちがありつつ、それが春や夏ではなく、秋や冬であるところが暑苦しくなく、さっぱりしている。冷ややかであるともいえるだろう。そんな二人の微妙な距離が感じられてくる面白い句だ。

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