相子智恵
忘れ物あへて届けず秋うらら 松枝真理子
句集『薔薇の芽』(2016.09 ふらんす堂)より
「秋うらら」という明るい季語によって、この忘れ物はどんな物か、忘れ物をした場所、忘れ物をした人と、された人との間柄……などがよく見えてくる句だ。
忘れ物を届けないのに麗らかな秋を感じられるということは、この忘れ物が財布や携帯電話など、重要かつ緊急に必要になる物ではなく、忘れていってもさほど支障のない、ハンカチのような物だろう。
忘れた場所も、もちろんレストランなど外出先ではなく自宅だ。
また、あえて届けなくてもよい間柄だから、電話などで忘れ物の連絡をしつつも「じゃあ、次に来る時まで置いておくね」「よろしく」と言えるくらいの親しさであることもわかる。お互いの家の行き来も頻繁だということも想像されてくる。
「忘れ物」「あへて」「秋うらら」のア音の繰り返しも明るく、弾むような感じが楽しい。忘れ物でさえ、この二人が過ごした楽しい時間の名残に感じられてくる。
●
0 件のコメント:
コメントを投稿