相子智恵
水餅の闇より母の手が戻る 駒木根淳子
句集『夜の森』(2016.11 角川文化振興財団)より
水餅とは、黴が生えたり乾燥してひび割れたりしやすい餅を、水に漬けて保存する方法。真空パックに入った切り餅が流通している現代、特に都会では家で餅をつくことも少なく、ほとんど見かけない風景かもしれない。
「水餅の闇」に、昔ながらの薄暗い土間や台所に置かれた、たくさんの餅が入った大きな甕や樽のようなものを想像した。「母の手」と相まって郷愁を感じるが、しかしながらこの句はただの郷愁の句ではない。異界や彼の世へ行って戻ってきたようなゾクッとする感覚がある。何も見えない「水餅の闇」と、「手が戻る」という母の意志を感じさせない書き方が不思議さを生んでいるのだろう。
母の手が真っ暗な水の中にぬっと入り、白い餅とともに戻ってくる。餅を掴んだ母の濡れた手も、餅のように白い。民話のような薄暗い不思議な怖さと懐かしさが入り混じった一句である。
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