相子智恵
向き変へて日あたる方へ花筏 岩津必枝
句集『十日戎』(文學の森 2017.03)
水の流れの穏やかな場所にできる花筏。風が吹いたのだろうか。大きな一枚の布のようにも見える花筏が、ゆっくりと向きを変えて日向の方へ動いていった。日陰から日当たる方へ、見えている花の色もゆっくりと、濃い色から明るい色へ変化する。ただそれだけの風景である。
「ひあたるほうへはないかだ」の「H」「A」の音の多さによって、読んでいるうちに息が抜けていき、何とものんびりした気分になる。あっという間に散ってしまう桜の時間の中で、花筏だけをぼんやり眺めているゆっくりとした時間は幸せだ。そんなぼーっとした幸せを、この句を読んで追体験した。
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