相子智恵
ひとすぢの藁の突つ立つ夏帽子 金子 敦
句集『音符』(ふらんす堂 2017.05)
ひと昔前までは素朴な農作業用、あるいは海辺で被るだけという感じだった麦藁帽子も、最近ではおしゃれな夏のファッションとして、街中で普段から被る人が多い。
そういえば、麦藁帽子ほど「素材」をリアルに感じる衣料品・装飾品というものもないな、と改めて思った。掲句、麦藁帽子の麦藁が一本、ぴょこんと立ち上がっている。元はきちんと編みこまれていたのだろうが、使っているうちに藁が一本出てきたのだ。〈突つ立つ〉の力強さには、帽子にまとまり切れない素材の主張が見えてきて、藁の「生きている(た)感じ」にハッとさせられる。
既製品の中にある、むき出しの野生。その力強さが〈突つ立つ〉に凝縮されている。淡々とした描写の中に、写生の力を感じさせる句だ。
●
0 件のコメント:
コメントを投稿