2017年5月16日火曜日

〔ためしがき〕 第二句集の計画 福田若之

〔ためしがき〕
第二句集の計画

福田若之


現在進行中の第一句集については、いまここに書くわけにいかない。けれど、すでに思い描いている第二句集の計画については、ためしにここに書いてみてもいいだろう。

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とはいえ、実現するかどうかはわからない。そもそも、載せる句にしたって、まだどんなものになるかわからない。句は、第一句集が校了してから書く。そうでないと、第一句集に載せたくなってしまうだろうから。

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計画しているのは、二つ折りにされた二枚の紙を重ね合わせて、折り目のところを上下二本のホチキスで留めるだけの、小さな本だ。

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句集の名はすでに決まっている。『二つ折りにされた二枚の紙と二つの留め金からなる一冊の蝶』。鳥でないのはその翅が四枚だからで、蛾でないのは休むときに翅を閉じるからだ。

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構成もほぼ決まっている。表紙には、「第二句集」という文言とともに、句集名、著者名と出版者名を印刷する。表紙をひらいて、最初の見開きの右(表紙裏)は印刷なし、左が扉で、ここには句集名、著者名と出版社名を印刷するか、あるいは、句集名のみを印刷する。扉をめくった見開きの左右に一句ずつ。さらにめくると見開きの右に奥付、左(裏表紙裏)は印刷なし、そして裏表紙。

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上述のとおり、収録句数はたった二句。ノンブルも、句のページだけをカウントして振ろうと思う。総ページ数は、二ページということになる。

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印刷する二句は、いずれも「鱗粉」の句がよいだろう。蝶の翅を彩る黒い鱗粉。これぞという「鱗粉」の二句を仕上げること。それも、できるだけ、たとえば虚子の〈虹消えて音楽は尚続きをり〉と〈虹消えて小説は尚続きをり〉のような、対になる二句が望ましい。

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計画は、「句集」というものの最小形態を実現したいというコンセプチュアルな欲求に端を発している。そこから、句集というものの最小形態にかかわる《二》ということにこだわってみたいという気持ちが出てきた。「第二句集」は、その絶好のチャンスにほかならない。

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《二》へのこだわりによって、この第二句集の計画は、実行されないまま「お蔵入り」になった「植樹計画」と明確に対をなしている。小説を準備しながら、ロラン・バルトは次のように語っていた――「ところで、全体的な〈書物〉とは別のもう一方の極には、短い書物の、濃密で純粋で本質的な書物の可能性がある[……] 」(Roland Barthes, La préparation du roman : Cours au Collège de France 1978-79 et 1979-80, Paris, Seuil, 2015, p.342)。「植樹計画」は、一句から無限性を志向し、それによって植物であろうとするものだった。『二つ折りにされた二枚の紙と二つの留め金からなる一冊の蝶』は、二句という有限性、二枚の紙と二つの留め金という有限性をその身に引き受け、それによって動物であろうとするだろう。

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あるひとから、第一句集は俳人としての名刺代わりになるものだ、という話を聞いたことがある。けれど、おもに金銭的な問題から、僕は、これから会うまだ数の知れない人たちにつぎつぎ渡していくほどには、第一句集を自分の手元に置くことはできそうにない。だから、この第二句集を名刺代わりにすることにした。というか、名刺にすることにした。
 
それには、奥付のページに著者名だけでなく、住所、郵便番号、電話番号、メールアドレス、参加している同人誌などを、プロフィールとして記載すればいいだけだ。一般的な名刺入れに収まるような、小さな句集。こうして、純粋に原理的な欲求が、思いがけず、世俗的な有用性に合致することになる。
 
句についてはともかく、この著者プロフィールについては、転居やあらたに別の雑誌に参加するなどした場合、改定する必要がでてくるだろう。名刺として人に渡すのだから、必要に応じて増刷する必要が出てくるだろう。そうした改版や増刷についても、最小限の情報は奥付に掲載しなければならないことになるだろう。
 
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フレキシブルな増刷・改版の必要があるから、必然的に、私家版にせざるをえないだろう。そして、名刺として渡そうというのだから、当然、非売品ということになるだろう。ISBNの取得は不要だろう(というか、申請したところで取得できるか、ちょっと疑わしい)。
 
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紙もある程度の固さが必要になる。あまり柔らかすぎると、名刺としての保管がうまくいかないだろう。しかし、分厚すぎるとおそらく普通の名刺と同じようには保管できない場合が出てくるので、固いだけでなく、ある程度薄い紙でなければならない。
 
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正直、最初に構成を思いついたときには、まったくの思いつきにすぎなかったのだけれど、こう書いてみて、思っていたよりも自分が本気になっていることに、ちょっとおどろいている。

2017/5/12

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