相子智恵
苦潮のゆらりと魚になき瞼 長谷川耿人
句集『鳥の領域』(本阿弥書店 2017.06)
海中の微生物の大繁殖によって海水が異常な変質を起こし、極端に酸素が少ない層が生まれる苦潮。養殖魚の大量死など、漁業にも大きな被害がある。
そんな苦潮がゆらり、じわりと魚に近づいているのだろうか。そういえば魚には瞼がないと気づく。苦しくても閉じられない目で、その潮を魚はどう見ているのだろう。
「苦潮のゆらりと/魚になき瞼」のスラッシュの前後で、視点が転換するのが印象的だ。苦潮がゆらりと近づく危機感と、瞼がない魚の目のクローズアップが、不気味に、悲しくぶつかり合う。
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