樋口由紀子
消音器付きの鐘売って来いってか
水本石華 (みずもと・せっか) 1949~
我が家は寺だから、身に堪える一句である。除夜の鐘の音がうるさいと苦情が来る世の中になった。みんな、イライラしている。みんな、疲弊している。みんな、ぎりぎりなんだと思う。
寺側からなら「消音器付きの鐘」を「買って来いってか」とぼやいてしまいそうだが、それではあまりにストレートすぎて、身も蓋もない。「売って来いってか」で場面が変り、愛嬌が出た。そんな商魂もありだろう。苦情を言うのも言われるのも、商魂たくましいのも商魂にのせられるのも、人間の可笑しみである。正面からではなく、側面からの批評性と創造性。世相を把握している。〈米研けば春の小川が濁るだけ〉。来年こそはすべての人が寛容に暮らせる世の中でありますように。「杜人」(2017年刊)収録。
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