相子智恵
伸びるだけのび啓蟄の象の鼻 岩淵喜代子
句集『穀象』(ふらんす堂 2017.11)所収
象の長い鼻はつくづく不思議な進化だと思う(もちろん象から見たら人間だって不思議な進化だろうが)。〈伸びるだけのび〉は、今現在、目の前にいる象が伸ばしきっている鼻のことを詠みながらも、そのような長い進化の過程をも思わせる。
地中の虫がみな動き出して外に出てくる頃という「啓蟄」という季語が〈象の鼻〉の前にいきなり挿入されることで、鼻は象に寄生し、意志をもって伸びていった別の生き物のようにも感じられてくるのが面白い。鼻の意志が、鼻を伸ばせるだけのばしたのだ。そんな不思議な味わいが、啓蟄という季語によって生まれているように思う。
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