相子智恵
花の雲より一川の流れ来る 松永浮堂
句集『麗日』(角川文化振興財団 2017.10)所収
桜が一面に咲き連なる様子を雲に見立てた美しい季語〈花の雲〉。上流の川端には、川にせり出すようにして桜の花が一面に咲いていて、作者は下流から上流を眺めている。
写生句として印象的でありながら、〈花の雲〉という季語によって、夢の中の景色のようにも感じられた。雲の中から雨が降って水が生まれ、やがて一本の川になる……一読してそんな「雲」そのものにまで思いが至り、その印象が重なって一本の川がまるで〈花の雲〉の中で生まれたように感じられてきたのである。
花の雲の中で生まれたような一本の川。この川は優しく華やかな水を湛えながら、静かにこちらへと流れてくる。美しい一句である。
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