2018年4月20日金曜日

●金曜日の川柳〔寺尾俊平〕樋口由紀子



樋口由紀子






マルクスは私か妻か金がたまらぬ

寺尾俊平 (てらお・しゅんぺい) 1925~1999

美容院で隣の会話の噛みあわなさに笑いをこらえて聞いていた。70歳前のお客さんと30歳前の美容師さんの有名人ネタなのだが、お客さんは当然知っていると思って話す、美容師さんはお客さんに合わせようと知っているふりをして答える。でも、共有されている情報がないから、全く噛み合わない。

「マルクス」だってそうなるだろう。カール・マルクス(1818~1883)はドイツ出身の思想家、経済学者で、世界の社会主義運動に多大な影響を与えた。が、今、名前が出ることはあまりない。掲句の発表された当時は「マルクス」はある意味で流行りの人であった。掲句はそれをいち早く取り入れている。マルクスは私有財産を否定していた。だから、その共有されている情報を俗っぽく引っ掛けて、つまりはお金が貯まらないことの言い訳をしている。「川柳研究」(226号/昭和43年刊)収録。

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