相子智恵
一日かけ逢ひにゆく樹や泉汲む 前田攝子
句集『雨奇』(角川文化振興財団 2018.4)所収
とある樹を目指して、丸一日かけて歩いている。見にゆくのではなく「逢ひにゆく」のである。樹への思いは強い。途中で喉が渇き、冷たい泉の水を汲んで喉を潤してほっと息をつく。これから逢いにゆく樹も育てた山の水だ。水の清らかさが樹への純粋な思いにつながっている。
縄文杉や大楠などの巨樹かもしれないし、思い出のある小さな樹かもしれない。句自体は静謐で清らかで涼しいのだが、その内側にふっと情念のようなものが立ち上ってきて、密度の濃い情趣を感じる。冷たいのにほんのり熱い、繊細な句だ。
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