黒岩徳将
五月雨や龍燈揚る番太郎 芭蕉
前回同様、延宝五年(一六七七)の作である。
「番太郎」は江戸で各町に雇われ、木戸の番や町の警備をした人を指す。「龍燈」は海上で深夜に点々と現れる光の現象を、竜神が神仏に捧げる燈火だと見なした語である。
シンプルな句の形であるが、「番太郎」まで読まないと、見立ての句であるとはわからない。海の景かと思わせておいて、街中であったかという種明かしを楽しむことができる。
「龍燈」がそもそも比喩の語彙であり、それをさらに見立てる。機智だけに留まりそうなところを、江戸の町の風情に着地させているところが、句としての力強さを保っている所以かもしれない。本日、東京は雨だが、江戸の五月雨はいかようであっただろうか。
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