相子智恵
日本狼終焉の山滴れり 戸恒東人
句集『学舎』(雙峰書房 2018.4)所収
〈終焉の山〉がどこなのか知らなかったので調べてみると、日本狼が捕獲されたのは明治38年が最後で、その地は東吉野村であるという。この山は、吉野の山ということになろう。
日本の国土の三分の二は森林であり、山地面積は75%だそうだが、そんな山ばかりの日本であるのに、もはや日本狼は生息していない。この句の〈終焉の山〉は吉野山でありながら日本のすべての山を象徴しているとはいえないだろうか。
そして、そのすべての山々から清水がキラキラと滴っていることを想像すると、その美しさと涼しさが、どの山にもすでにいない固有種への喪失感となって静かに押し寄せてくる。
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