2018年6月12日火曜日

〔ためしがき〕 ひよどりの身振り 福田若之

〔ためしがき〕
ひよどりの身振り

福田若之

若葉の枝にとまったひよどりが、しきりに首を動かしている。あっちを見て、こっちを見て、休むことを知らないみたいに、せわしない。見えないものに脅えているのか、それとも、自らをとりまく初夏の光がそれほど驚きに満ち満ちているのか。

それはほかにもどこかで見たことがあると感じる、しかしそれそのものでしかないとも感じる、それくらいありふれた、それくらいとりとめのない身振りだった。何かをその身振りに喩えることができそうな、しかし何をそれに喩えうるのかはまだわからない、少なくとも今のところは寓意の可能性でしかない何か。

そんなものをわざわざ言葉にしておくことに何の意味があるのか、それはわからない。それどころか、ついに寓意の可能性でしかないままに忘れ去られたほうがよいのではないかとさえ思う。ひよどりの身振りが何を意味しようがそれは本質的なことではない。僕はひよどりの身振りの意味にではなく、ただひよどりの身振りに惹かれたのだから。わざわざ寓意を見出すことには、さほど価値はない。あるとすれば、それによって、僕たちがもう一度あのひよどりの身振りについて語る機会を持つことになるというだけだ。それには、さほど価値のないままでいい。

2017/6/12

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