相子智恵
香の強き茅の輪を遠く来てくぐる 伊藤敬子
句集『年魚市潟』(角川学芸出版 2018.5)所収
遠くを歩いていたところ、強い香りによって茅の輪に気づき、遠くから香りに誘われるようにしてくぐったということだろうか。立派な茅の輪が想像されてくる。
これが「遠く来て香の強き茅の輪をくぐる」というような語順であれば普通なのだが、〈香の強き〉よりも〈遠く来て〉が後であることによって、ふっと不思議な感じが生まれている。強い香りの茅の輪に誘われてくぐったのは自分であろうが、遠くの異界からやってきた誰かのような感じもしてくるのだ。
くぐることで穢れを祓う茅の輪だからこそ、この何気ない語順が生む不思議さが生きているように思う。
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