相子智恵
百合一輪フェンスに茎と隔たれて 花谷 清
句集『球殻』(ふらんす堂 2018.5)所収
上向きに咲く種類もあるが、掲句は鉄砲百合のように、茎から折れるように横向きに咲く百合の花だ。
空間を隔てるフェンスの向こう側で育っていた百合のうちの一輪の蕾が、フェンスの網目からこちら側へ出た。蕾は細いので、フェンスの向こう側に抜いて向きを直すこともできただろうが、気づかれぬままに蕾は育ち、フェンスの網目よりも大きな一輪の花を咲かせた。もうこの百合の花は茎と同じフェンスのあちら側に戻ることはできない。花と茎は隔てられた。
一輪の存在感が大きく華やかな百合の、ふとしたあわれにハッとする。フェンスという人工的なものへの批評の眼もあるのだろう。印象鮮やかな一句である。
0 件のコメント:
コメントを投稿