黒岩徳将
秋きぬと妻こふ星や鹿の革 芭蕉
『江戸通町』より。『芭蕉全句集』(桜風社)では延宝五年作とあるが、『江戸通町』が延宝六年跋なので、延宝六年の作の可能性もある。「秋きぬと」の出だしには、「秋来ぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞおどろかれぬる/藤原敏行朝臣」を嫌でも思い出す。「妻こふ星」は牽牛星で、妻は織女星のことである。この句は「妻こふ鹿」と思いきや先に「星」を出してきた。秋になると鹿の外側の毛に斑点が現れる。それを星に見立てた。星合のイメージから派生して、芭蕉が本当に出会わせたかったのは七夕と鹿なのである。この、妻→織女→牽牛→星→革→鹿のイメージの転化プロセスと、「や」の切れによる見立ての強調という2つの技の影響は今の俳句にどれほど残されているのだろうか。
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