相子智恵
南瓜切る浅撫でに撫でほめてのち 山田耕司
句集『不純』(左右社 2018.7)所収
いやらしくて、薄情で、南瓜なのにミステリー映画のような仕立てで笑ってしまった。
まず冒頭の〈南瓜切る〉で、この南瓜の運命が、先に読者に提示される。
そして〈浅撫で〉である。これは造語だろうか。立派によく育った南瓜を撫でてほめているのだが、〈浅撫で〉によって南瓜だということを忘れそうになる。〈浅撫で〉は犬の頭をごしごしと撫でてほめるような明るく無邪気なほめ方ではない。肌の上をスーッと撫でる愛撫のような撫で方だろう。〈浅撫でに撫で〉で、執拗に撫でまわす。しかもその育ちぶりをほめながら。
そして、また冒頭に戻る。南瓜は愛から死(?)へ、真っ二つに身を切られる。ゴツリ、と鈍い音を立てながら。立派な南瓜だから、固くて相当な手ごたえがあることだろう。包丁に全体重をかけて切る主人公と、抵抗する南瓜。その手ごたえの重さが容易に想像できる南瓜だから、この句に“バラバラ殺人事件”のような妙な雰囲気が立ち上がる。
南瓜だからこそ笑えるだけでなく、南瓜だからこそ妙なリアリティが生まれていると言えるかもしれない。
●
0 件のコメント:
コメントを投稿