相子智恵
馬市や秋夕焼の大楽毛(おたのしけ) 梅元あき子
句集『大氷柱』(金雀枝舎 2018.8)所収
北海道釧路市の「大楽毛」の地名は、辞書によればアイヌ語の「オタ・ノシケ(砂浜の中央の意)」に由来するという。阿寒川の河口に位置し、海岸には砂丘が発達した町で、農耕には向かない土壌のため牧畜が発展。馬の競りが行われる「馬市」が、大正から昭和初期にかけて繁栄したのだそうだ。
掲句、夕焼けであるから馬市も仕舞いなのだろう。売れ残った馬たちもいるかもしれない。馬たちは秋の夕焼けに黒々と照らされ、足元には黒い影が長く伸びている。そんなシルエットの世界はわずかな時間であり、すぐに夜がやってくる。
北海道の短い秋は、照らされた仕舞いの馬市のように一瞬の印象を残しながら静かに過ぎ去ろうとしている。地名の活きた一句である。
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