2018年10月23日火曜日

〔ためしがき〕 ゆうれい草、ユウレイソウか? ユウレイグサか? 福田若之

〔ためしがき〕
ゆうれい草、ユウレイソウか? ユウレイグサか?

福田若之

このあいだ、麒麟さんと《又の名のゆうれい草と遊びけり》(後藤夜半)の話をした(「多摩川」3/8)。「ゆうれい草」の読みの話になった。

ユウレイソウか、ユウレイグサか。あとになってから、やっぱり気になったので調べてみた。

すると、ユウレイソウは麒麟さんの言うように銀竜草の別称だが、ユウレイグサは紫陽花の別称だそうだ。音だけでなく、花そのものが違ってしまう。

銀竜草は、その姿かたちから茸の仲間と勘違いされて幽霊茸という別称もあるけれど、実際にはツツジ科に分類される多年草で、腐生植物の一種として知られている。腐生植物というのは、光合成をせず、菌類と共生することで養分を得て生きている植物のこと。葉緑体を持たず、半透明の白い茎がひょろひょろのびているそのうえに茸の笠にみえなくもない花を咲かせるので、きのこと勘違いされたのだろう。花の重みにうなだれたその立ち姿は、たしかに幽霊のようでもある。

銀竜草の花期は6月から7月ごろであるから、紫陽花とおおよそ重なる。夜半がどの時季に句を作ったかを調べても、それだけではユウレイソウかユウレイグサかを断定することはできない。

けれど、この句は、『底紅』のなかでは《腰曲げしゆうれい草のふとかなし》という一句の隣に置かれている。この句の詠みぶりは、紫陽花よりははるかに銀竜草の花のありようを思わせる。

おそらくユウレイソウで間違いないのだろう。そうであってほしいと思う。もしも、これがユウレイグサすなわち紫陽花だったとすると、こちらはこちらで七変化というまた別の名もあって、何やら浮気心のようなことが連想されてしまい、「遊びけり」という言葉が色恋沙汰のほうに寄っていってしまう。要するに、言葉が意味ありげになりすぎる。さらっとした佇まいの句であるから、さらっと読みたい。

2018/10/21

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